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ガラス張りの窓越しに

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ガラス張りの窓越しに


ガラス張りの窓越しにTの課を見渡した。Tは隣のデスクのMと何やら夢中で話し込んでいる。
二人で盛り上がっているのが廊下にいるわたしにまで伝わってくる雪纖瘦。Tは、廊下のわたしに気が
つくと気が重そうな顔をした。その顔を見てわたしは今は都合が悪いんだとすぐにわかったが、
気づかない振りをしてドアを開けてそばへ行った。わたしと入れ違いに「すぐ戻って来るから」と
云って、Mが出て行った雪纖瘦。するとTはわたしから目をそらして黙り込んでしまった。片手を顎にあ
てて口も利きたくなさそうだ。嫌そうな顔をしている。わたしは(やっぱり、イヤなんだ……)と思っ
たが、敢えて尋ねた。
「今、お話し中ですか雪纖瘦? 」
 わたしの問いかけに、彼は顔を背けて黙ったままだ。言いにくそうだ。
「じゃあ、また後(あと)にします」というと、彼は、やっと一言、「すみません」と言った。
 
 (本当に都合が悪いのかしら? それとも頻繁に来られるのが困るのかしら? )
課を出て、廊下を歩きながら、考えた。本当のところはどうなのだろう? 時間が経つにつれて、
彼の真意がわからなくなった。嫌がっている彼の顔がわたしの頭から離れない。同僚と楽しく
話す彼の声がやたらとよく聞こえてくる。その度に楽しげな声の調子と、さっきわたしに見せた
あの嫌そうな顔とを比べてしまい、惨めになった。
 この日の夜、わたしは生まれて初めて一睡も出来ず、泣き明かした。
 誰でも、都合が悪いときは、出直しするのだ。社会人の常識だ。この時のわたしにその常識
が無かったのではない。相手がTでなければ、わたしもオトナの対応をしていたのだ。
 人に接するときには、常識の立ち位置というものがある。一定の距離がある。
 でも、Tは、「違う」のだ。最初から距離が無い。
 「常識」を意識する以前に、わたしの心が動かされている。心の反応のほうが早いのだ。この
頃はもう毎晩何十分かは泣いていた。そしてその涙はこの後5年間途絶えることがなかった。
毎日泣いていた。その「泣く」ということに関しても尋常ではない。わたしは知らなくても、ワタシ
が知っていた。そのワタシというのは、無意識というか、タマシイというか、そのようなもので、と
にかく反応が素早いのだ。反応の次元が違うのだ。
 一度、あるいは数分話しただけでも、心が一瞬のうちに同じ立ち位置にいってしまう。別々の
人間とは思えないほどの近さに。
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